●切ないほどの母の愛『さくらんぼ』TIFFで上映へ(2007/10/22)
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都会を舞台にしたドキュメンタリー作品などで知られる日本在住の中国人監督、張加貝(チャン・ジァベイ、=写真左下)による

日中合作映画『さくらんぼ 母の愛』が、20日から始まる第20回東京国際映画祭(TIFF)の「アジアの風」部門で上映さ

れる。若手実力派女優の苗圃(ミァオ・プー)が、体当たりで子供を愛する知的障害を持った母親を演じる話題作。切なくなるほ

ど果てしない母の愛情を、美しく広がる雲南の棚田を背景に描いている。新境地を開いた張監督に話を聞いた。

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――アジアの他の話題作と共に、今回、東京国際映画祭で上映されることになった『さくらんぼ 母の愛』ですが、撮影はいつ頃

だったんですか

張:06年の7月にクランクインして、9月にクランクアップしました。雲南で50日間、1日も休まずにずっとロケ(笑)。こ

れが中国の撮影スタイルなんですね。日本ではあり得ないことなんですけど

――スタッフの方はもちろん大変でしょうけど、監督が一番大変でしたね

張:まぁ……。いや、今回、カメラマンさんが日本人だったので、その方が一番大変だったでしょう

――撮影監督は『絆−きずな−』の丸池納さんですね

張:今回は普通の映画の手法でなく、ドキュメンタリータッチで撮りたかったんです。照明はきっちりしなくてもいいし、実際の

家庭の中にカメラが入り込んだように見せたかったので、手持ちのカメラで撮影しました。丸池さんはご自分で作った手持ち撮影

用の道具をわざわざ日本から持ってきて下さいました。農村の民家の暗い部屋の中から外まで動きのあるシーンを撮るのは、とて

も大変だったと思います。僕が「ピントが合ってないところがあってもいい」と言っていたので、実際、合っていないシーンもあ

ります

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――もともと、この作品を撮ることになったのにはどんないきさつがあったんですか

張:僕の知り合いのシナリオライターの鮑十(バオ・シー)と、農村を題材にしてなにか創ろう、と話していたんです。彼は張芸

謀(チャン・イーモウ)の『初恋のきた道』を書いた人ですが、「田舎の知的障害のあるお母さんの話なんてどう?」と言うので

、いいな、ということになりました

――監督は北京や新宿・歌舞伎町など、都会を舞台にしたドキュメンタリータッチの作品が多いのですが、今回はなぜ農村を舞台



張:僕は上海の都会生まれなので都会ものの作品が多かったのかもしれないですが、今回は「母の愛」を描こうと思ったんです。

今、日本でも中国でも欠けているもの。生活は豊かになっても、精神的には乏しくなって、親と子供の関係が寂しくなっています

よね。子供がなにか欲しいと言ったら、お金で解決してしまうみたいな。でも、そういうんじゃない、暮らしは貧しくても、知的

障害を持つがゆえに本能的な愛を持っている母の物語が描きたかった。まずは子供が欲しいということ。それから、子供がいたら

他のものはなにも要らない。子供にすべてを集中する。そんな愛です

――監督ご自身はお母さんとはどんな関係でしたか

張:やっぱり12歳ぐらいのころは反抗期で、よくけんかしましたね。この映画のヒロインの娘みたいに、自分の母を恥ずかしく

思ったりね。あとは僕のおばあさんが母以上にうるさくて(笑)。殴り合いのけんかをして、「出て行け!」って言われたり。そ

の時のことははっきり覚えていて、この映画の中にもそんな台詞が出てきます。今になって、僕のことを考えてくれていた母や祖

母の気持ちが分かるようになったから、映画にそういうものが反映されているんだと思います

――どうして雲南だったんですか

張:インターネットであれこれ調べていて、雲南の棚田の美しさにほれ込みまして、人々の暮らしの貧しさと、大自然の豊かさと

の差を表現するのにいいな、と思いました。撮影所のある上海から雲南まで飛行機で2時間半、そこからバスで7時間かかるので

、移動だけでも大変でしたけど(笑)。夏に撮影したんですが標高が高いので涼しいのは良かった。でも天気がコロコロ変わるん

ですよね。撮影準備の時にはピーカンでも1時間後には雨だったり、撮影を中止しようと思ったらまた晴れたりね。準備が大変で

、それが一番苦労しましたね

――映画の公式サイトにはロケ地となった雲南の棚田の写真集もありますね

張:あの写真を撮った方が棚田写真では有名な馬理文さんです。今作の撮影ガイドで、彼がいなかったら撮影は成り立ちませんで

した。実は、村長役としても出てくれているんですよ

――スタッフは何人ぐらいでしたか

張:スタッフ60人に役者が10人ぐらいで、総勢70人。スタッフは上海、北京、湖南、四川に香港、日本といろんな所から来

た人がいましたね。言葉もばらばら。中国人スタッフでもみんなが気をつけて標準語を話さないと通じないし、日本人には通訳が

入るという状況でしたけど、そのみんながひとつの物を創るために知恵を絞ってくれて、本当に感謝しています

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――ヒロインの桜桃役は女優の苗圃(ミァオ・プー)さんですが、他の役者さんはどういった方ですか

張:プロの役者は苗圃だけでした。あとは雲南のあちこちをスタッフが回ってオーディションで集めてきた人たちです。夫役の妥

国権(トゥオ・グオチュエン)は地方劇をやっている人ですが、そういう劇は表現がオーバーですから、普通の田舎の農民を演じ

てといっても最初は大変でした。夫役を探すのが一番苦労しましたよ。現地の言葉が話せて、二胡が弾けて、芝居ができる人、と

いうのがなかなかいなくてね。現地で探すのをあきらめて、プロを使おうと思っていたところにクランクインの直前でやっと、彼

が見つかった。普段は別の仕事をしているのですが、撮影中は休んでもらってね。娘の紅紅(ホンホン)の小学生時代を演じた龍

麗(ロン・リー)は少数民族の女の子で、芝居は初めてでしたが頭がいいので指導は楽でしたよ

――苗圃は知的障害がある母親という、難しい役だったと思いますが

張:そうですね。下手すると作品全体が崩れてしまうということで、彼女は責任を感じてとても緊張していました。売れっ子女優

ですからスケジュールがつまっていて、事前に準備をする時間もなかったんですね。撮影を始めたものの、どうも彼女の演技はち

ょっと違うな、と感じたので、知的障害者の施設から1人、役に合いそうな方に来ていただいて、1週間ぐらい生活をともにしま

した。その間に苗圃は演技を研究したんですね。それでぐっと良くなった

――苗圃さんは監督の前作『陶器人形』にも出演されていましたね

張:彼女は人がいいし、演技の上手い役者なので、ぜひこの役に挑戦してもらいたいと思ってまたオファーしました。私は今回、

苗圃に「演技する必要はない」と言っていたんです。役者は素人さんと演技すると自分の芝居がオーバーなんじゃないかと怖くな

るんですよね。でも、その難しいところを彼女は上手くやってくれました。さすがですね

――中国で今、10本の指に入るぐらいの有名女優という苗圃が、貧しい農村のあぜ道を汚い格好でふらふら歩く映像だけで、も

うかなりのインパクトですよね

張:本当に汚い衣装で、赤ちゃん役の子を抱くと泣き出しちゃうぐらいでした(笑)。実は、撮影していた村に1人、知的障害の

あるおばあさんがいて、普段、他の人とは一言も話さないのに、苗圃がその人のところに行くと通じ合うものを感じるのか、話し

てくれたんですよ。「あんたの格好、汚いねえ」とか。苗圃はそれでかなり自信をつけたみたいです

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――ところで監督は日本に住まれてもう17年だそうですが、もともとはなぜ日本に

張:中国の大学で日本語を勉強していて、卒業してから中国映画人協会というところで外国の映画を研究する仕事をしていました

。日本の映画人と話すうちに自分も日本で映画を撮りたいと思うようになって。祖父が中国ではちょっと知られたシナリオ作家だ

ったこともあって、僕自身、映画への思いは強かったんでしょうね。来日して今村昌平さんの日本映画学校に入学して、今に至る

という訳です

――日本と中国の映画界で違うと思われるのはどんなところですか

張:日本では助監督が事前にリサーチして進めてくれたりしますが、中国では全部、自分で指示しなければならないんです。今回

、学校のシーンで教室に貼るスローガン作りを中国人のスタッフに任せたら、文字が3カ所も間違えていて……。後で気付いてそ

のシーンは結局、撮り直しました。自分たちで考えて、調べて、作品をもっと良くしようという積極性は日本のスタッフの方が強

いですよね

――逆に、日本の映画界に足りないと思われるところは何ですか

張:日本はちょっと固すぎるかもしれませんね。臨機応変さが足りない。ロケハンしてもう決めてある撮影場所を直前に変えよう

としても、「話を通してあるのでこれから変えるのは難しい」と言われてしまいます。中国では1日前でもできたりする。その辺

、中国は楽ですよ(笑)

※『さくらんぼ 母の愛』は第20回東京国際映画祭で23日 Bunkamura・シアターコクーン、26日 TOHOシネ

マズ 六本木ヒルズにて上映。一般チケット発売中。(編集担当:恩田有紀)

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