●鬼才・蔡明亮監督『楽日』は「絵本」の味わい(2006/09/13)
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台湾をベースに活躍する蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督の作品『楽日(原題:不散)』(03年)が渋谷ユーロスペースで公開中だ。
閉館する古い映画館「福和大戯院」。上映作品は胡金銓(キン・フー)監督の武侠映画『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿(原題:龍門客棧)』(1967年)。最終日の最終回上映の観客はまばらだ。そこへ1人の青年が迷い込むように映画館へやってくる。座席に着くと、音を立てて物を食べるカップルや、空いているのに隣に座るイカツイ男性などさまざまな観客に悩まされ――。
最終回上映のオープニングからエンディング、片付け、スタッフが帰るまでを淡々と描いた作品。淡々とした中にもちょっとした仕掛けがあって飽きることなく見続けられる。敢えて言うならさまざまな読み方、楽しみ方ができる「絵本」のような作品だ。
ベネチア映画祭のハプニングとして語り継がれるワンシーンがある。作品の終盤、空っぽの映画館の客席が5分にわたって延々と映し続けられるのだ。その間、カメラは微動だにせず、スクリーンの中の動きもない。ベネチアの観客の反応はさまざまだった。ある者は戸惑い、腰を浮かせ、ざわつく。一方である者は感動し涙を流したという(ちなみに筆者は該当シーンで秒数を数え始め100で止めた)。
「映画好き」な方にはもちろんおすすめだが、旅先で映画館に入ってしまうような「映画館好き」にはたまらない作品だ。チケット売り場、客席、トイレ、映写室などを細部にわたってじっくり見ることができて、それだけでも楽しいが、この作品を見た後で別の劇場に入ると、見慣れたはずの劇場の細部が新鮮に見えてくることだろう。
映画館にやってくる青年は日本人・三田村恭伸。熱狂的なファンとして台湾まで会いに行った蔡監督から後日連絡が入り、スクリーンデビューを果たした。彼の淡々とした演技も作品世界にピッタリ合っている。
※渋谷ユーロスペースでは、蔡明亮作品には欠かせない俳優、李康生(リー・カンション)の初監督作品『迷子(原題:不見)』(03年)も上映中。23日からは蔡明亮が日本のAV女優・夜桜すももを迎えて撮った“純愛映画”『西瓜(原題:天辺一朶雲)』(05年)も公開される。
(編集担当:菊池真一郎)
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