●中国人に京劇をアピール、京劇俳優/演出家 厳慶谷(2006/08/22)
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外国からの逆輸入の形でもいい、中国人にもっと京劇をアピールできれば――京劇俳優(国家一級俳優)/演出家 厳慶谷
プロフィール:
京劇俳優。上海京劇院所属。1970年中国・上海生まれ。上海戯曲学校京劇班に入学。初の京劇研究生であり、張春華の弟子でもある。90年上海京劇院入団。96年北京の中国戯曲学院で学び、2000年国家一級俳優に。武丑・猴戯を専門とする。1989年の初来日公演以降、日本を含めた海外公演多数。2001年11月より「能狂言と京劇の比較研究」をテーマに伊藤茂教授の指導下で神戸学院大学に留学し、同時に狂言師・茂山家に師事し狂言を学ぶ。2002年12月上海に帰国。2003年1月よりストックホルム演劇大学にて京劇理論・実技の講義を行う。2006年5月〜6月に行われた『楊門女将〜楊家の女将軍たち〜』の日本公演では初の演出にも挑戦し、好評を得る。国際文化交流促進にも積極的である。
ウェネバー誌連載「ぶんぶん京劇ワールド」でもおなじみ、京劇俳優の厳慶谷さん(国家一級俳優)が先日初演出した『楊門女将〜楊家の女将軍たち〜』(日本経済新聞主催)の日本ツアーが好評のうちに幕を閉じた。全国4カ所、全21公演というボリュームながら、日本の京劇ファンの熱狂的な支持を得てどの公演もほぼ完売。2時間公演が1日2回という長さにもかかわらず、ほとんどのファンが両方の公演を観たという。厳さんにとって今回の日本公演が演出家としての記念すべき第一作目となった。
「演出家として特に気を遣ったのは歌の部分です。京劇の日本公演の場合、日本人は中国語の歌がわからないので通常はセリフや歌の部分をカットするものですが、僕は歌もちゃんと聴いて欲しかったので、ほとんど原作のまま持って行きました。日本のお客さまは知識の深い京劇ファンが多いので、きちんと内容を理解してくれましたよ。プロの京劇ファンが増えたんだなと実感しました(笑)。絶妙なタイミングで叫好の声がかかったときは、さすがに俳優たち皆が感激していましたね」
今回、厳さんが演出家としての道を模索しはじめたのは、京劇団を日本に招聘している「楽戯舎」の津田忠彦氏のアドバイスによるところが大きい。この日本公演で厳さんを抜擢したのも、以前より厳さんに演出家としての資質があると見抜いていた津田氏だ。実際、厳さんの行当(※1)である「丑」は立ち回りが多い道化役なので、体力的なことも含めて将来のことを考えた場合、演出という形で京劇と関わるという選択は正しいように思える。しかも、京劇専門の優秀な演出家は常に不足気味なので、今後、厳さんのように京劇に精通した演出家が活躍することは、京劇界にとっても望ましいことだろう。
「今回、日本公演を演出させていただいたことで、自分が大きく成長できたと感じています。日本の現場スタッフからも大きな刺激を受けました。おかげさまで今回の日本公演の好評を受けて、すでに来年2007年1月に行われる武漢雑技団の日本公演(毎日新聞社主催)の演出依頼も来ています。いろんな舞台を経験しながら、演出家としても成長していきたいですね」。
今後は俳優を続けながら演出家としての活動も合わせて行うことになるが、これまでさまざまな国で京劇の普及に力を尽くしてきた厳さんにとって、最終目標は京劇の認知をさらに高めていくこと。演出家へのチャレンジもその大きな流れの中のひとつだ。
先の日本公演での熱狂的な受け入れとは対照的に、中国で京劇を取り巻く環境は決して楽観的ではなく、伝統芸ならではのシステムの問題もある。思うように拡がりを見せないジレンマもあるようだが、「外国からの逆輸入という形でも、中国の若い人たちに京劇をアピールできれば」と語る厳さんの口調はあくまでも前向きだ。演出という新しい方法でさらに拡がりを見せる厳さんの京劇世界に、今後も注目していきたい。
※1 京劇の舞台上の特徴別に分かれた登場人物の性格分類のこと。現在は生・旦・浄・丑の4つがある。
それぞれの行当にはセリフ回しや衣装、演技などがだいたい決まっており、京劇役者はひとつの行当を一生演じ続ける。
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