●必見!日本製香港活劇『マスター・オブ・サンダー』(2006/08/21)
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千葉真一×倉田保昭という夢の共演が話題の映画『マスター・オブ・サンダー』が8月19日公開となる。監督の谷垣健治氏は、知る人ぞ知る香港映画界のキーパーソン。単身、香港へ乗り込みアクション監督としてのキャリアを積み上げてきた谷垣氏の、劇場用としては初監督作品となる本作は、二大巨頭の濃厚アクションと若手俳優たちのフレッシュな意気込みが絶妙にブレンドされた、青春アクションコメディに仕上がっている。そこで公開を前に谷垣氏にロングインタビューを敢行、前・後編に分けて掲載する。今回は『マスター・オブ・サンダー』撮影時の苦労や楽しさを語っていただいた。次回は単身挑んだ香港映画界について…どちらもイイ話満載です!
■150人の大立ち回り!!
――作品の初っぱなから、悪鬼と三徳和尚の弟子たちとの大掛かりな格闘シーンにひきこまれました。あれは1カットですよね、長尺の。
「前からやりたいと思っていて。でも『トム・ヤム・クン!』(05年タイ)の“長回しでござい”的なのではなく、『オールド・ボーイ』(03年韓国)での、あれ? 切ってない。切ってない。まだ続く! すげー! 長回しだよ!!――という感じを狙いたかったんですよね」
――このアクションシーンのために150人のエキストラを集めたそうですが。
「やる以上はインパクトが欲しかったんで。千葉真一・倉田保昭といった面子がまだ出てこないオープニングで、アクションクラブのメンバーがどんなにすごいアクションをやろうが、それをカット割りで見せたら印象には残らないです。だったら、中国ロケの映画ばりに人海戦術でいこうと。長回しで人がいっぱいいて『トム・ヤム・クン!』みたいに派手な技はないけど、密度の濃いものをやってやろうと思ったわけです」
――百数十人を使った長尺の難しさはどのへんに。
「意外でしょうが、150人を150人に見せるのが難しかった! 人と人の間にほかの人の顔が見えるようにしないと人が多く見えないし、たとえば、悪役に殴り飛ばされてカメラを振る、振ったその先にも人を配置しておかないと画面がすっからかんになる。撮影ではA、B、C、Dと4パートに分けて人を配置し、悪鬼役の中村浩二さんの立ち回りを全員に覚えさせました。それでも足りないときのため、手前にカメラ前を横切る“シャッター”要員を3人を待機させ、シャッターするほどの間がないときは“葉っぱ”要員2人にカメラの前に葉っぱを降らせるという具合でした。大変そうでしょ(笑)」
■大御所のクライマックスが“チョイ悪”対決に!?
――千葉VS倉田、夢の対決ですよね。アクションのテンポが軽快で、対決シーンは面白かった。
「大御所同士ですから、いわゆる従来のイメージとしてはもっと立ち合いの間が長く、カンカンとつばぜり合いがあってまた離れて睨み合ってというのがあるんでしょうけど、この映画では2人を使って今風のテンポのものを作ってみたかったというのがあります。
背景音楽もロック系を合わせたらどうかなと思ったんですよね。試しに吉川晃司さんの『パンドーラ』を入れたら、音楽って本当に不思議で、今までなんとなく誇り高い因縁の対決に見えたのが、チョイ悪オヤジ同士の闘い、丁々発止の闘いに見えてきたんです。いっきに映画自体の年齢が若くなった感じで、あー、これいいかも、と。ほんとにチョイ悪オヤジなんですけどね、あの人たち(笑)。音楽といえば、大槻ケンヂさん率いる“特撮”もかなりの楽曲を提供してくれているので要チェック!ですよ」
――今作の発案は監督の師匠でもある倉田保昭さんですね。
「そうです。ただ倉田保昭だけではなく、もう一人誰かを出すことで足し算じゃなく掛け算になるような相乗効果が出ないかな?じゃあどうしようと考えたときに、その前に仕事をした香港映画の『SPL/狼よ静かに死ね』(05年香港)を思い出したんです。あの作品は甄子丹(ドニー・イェン)と洪金宝(サモ・ハン)のドリームマッチ的な面白さがある。ドニーが倉田保昭だとしたら、サモ・ハンはもう千葉真一しかいないと」
――あの対決は香港アクションぽいですよね。
「最初倉田先生には“香港のアクションと同じ事やってもしょうがないよな”と言われていろいろ模索もしたんですけど、無理して変えてもしょうがない、結局僕はこれしかできないんです(笑)。香港映画から最も影響受けているものはテンポ感だと思いますね。この映画でのテンポも僕が映画を見ていて飽きる寸前のテンポで、生理的なもの、もう計算じゃないですね。」
■千葉真一、倉田保昭、それぞれの思い
――千葉さんの出演交渉はスムーズにいったんですか。
「……大変でした。プロデューサーと一緒に何度も足を運んで。半年くらいかかったかな。行くと千葉さんが“じゃあ世界観の説明を”! そんなこと聞かれたって俺は『五福星』(84年香港)―※香港で大ヒットした成龍(ジャッキー・チェン)、サモ・ハン、元彪(ユン・ピョウ)共演のアクションコメディー―なんだ、と(笑)。テーマは、面白いアクションすりゃいい、ですから僕の中では。同じアクションの畑にいるからといって二つ返事で承知はしてくれません。千葉さん自身は60過ぎまでアクションやってきた自負もある。“アクション監督です、いいもの撮ります”って紹介されても“何を?”って、それは思いますよね。とにかくこちらの真剣さを粘り強く訴えて承知してもらいました」
――倉田さんは、香港のアクションをどう見ているんですか。
「『又愛又恨』(好きなところがあれば嫌なところもある)という感じですね。アイツら(香港の役者やスタッフたち)とやるともう大変だよぉ、とか言いながら、やらないと寂しい自分もいる。でも“やっぱりアクションは香港”と思っているでしょう。倉田先生は今回かなり走りこんでましたよ、自分では言わないけど(笑)。かなり作り込んでいた。やっぱりストーリー抜きに、千葉真一との闘いを記録に残したかった。それがあったと思います。彼はブルース・リー以外のほとんどの香港のアクションスターと共演していますから。王羽(ジミー・ウォング)、陳星(チェン・シン)、狄龍(ティ・ロン)、姜大偉(デビッド・チャン)、ジャッキー・チェン、ユン・ピョウ、李連杰(ジェット・リー)…。で、残っているのが千葉真一だったということでしょうね」
――大御所2人の演出はやりにくかったのでは。
「……千葉さんはやる前は、アクションっていうのは見せ物じゃないからさ、って言うわけです。僕はもうパンチ一つ出さないから、気合いで芝居するんだからね、と。でも、いざ始まるとドカーン!とはじける(笑)。体に梵字書いたらどう? 数珠さげたらどう? と、次々提案してくる。やっぱり好きなんですよね。倉田先生は先生で、羽織袴がいいなあ、とかね。2人の対決シーンも千葉さんが倉田さんと組みながらこと細かに提案してくれたりして、それでいいですか、監督?って言うから、それはもうこっちは乗ったもん勝ちです。
もっとも千葉・倉田っていう2人の御大は、アクション上手い下手じゃないんですよね、ああなったら生き様自体が演技というか。現場でね、本当に魂のぶつかりあいが見えたんですよ。だから、2人にはできるだけシンプルなものをやってもらおうというのはありました。それで耐えられる人たちだし、シンプルなことをやればやるほど、映える人たちですから」
■木下あゆ美は気が強い!?
――対する若手俳優たちですが、アクションも元気よく、見ていて楽しかった。キャスティングでは彼らのアクションの経験も考えたのですか。それとも監督のアクション演出のたまもの?
「基本的に芝居ができたらアクションもできるように見えると思うんです。ヒロインのアユミ役の木下あゆ美以下たまたま戦隊ものに出ているタレントが集まったけど、意識して選んだわけではないです。以前ドイツでやられ役のオーディションがあって格闘家とスタントマンと役者が集められたんだけど、最終的に使えたのはやっぱり役者だった。次がスタントマンで、一番使えなかったのが実は格闘家。香港もアクション俳優のほとんどが京劇出身じゃないですか。あの人たちは模写がすごく上手い。サモ・ハンは詠春拳できないけど、詠春拳の師匠を連れて来るよりよほど師匠っぽく見える。
実際じゃないかもしれないけれど実際っぽく見えたら第一段階として合格ですよね。今回の若手のアクションについて言えば、こっちもプロですから、50点くらいのことをやってくれたら、それは70点くらいに見せられるわけです、ありとあらゆる手段を使って(笑)」
――ヒロインのあゆ美ちゃんの出来はどうでしたか。
「木下とは前からやりたいなと思っていたんです。運動神経はまあ普通ですが、顔も声も凛々しい感じがあるので、いいなあと。気は強いですよ(笑)」
――ひょっとして、演技のことで議論したりとか…
「もちろんありましたよ。でも、やり合ったほうがいい。僕のルールをそのまま通すだけだと、どの俳優を見てもリアクションや表情さえもすべて僕に見えてくるんですね。そうではなくて、いろんな意見を取り込んだほうがいい。
木下は良くやってくれたと思います。でも、7人の中心人物としてのアユミの役柄は難しかった。『レインマン』(88年アメリカ)のダスティン・ホフマンがすごいって言うけれど、あれを受けているトム・クルーズの難しさ。それに近いことを木下が感じたんじゃないかなと。でも彼女なりによく考えて演じてくれたと思います」
■子供からお年寄りまで楽しめる娯楽映画を!
――試写会を見た人から“80年代のごった煮的な香港映画を思い出した”というコメントが寄せられたそうですが。
「うれしいです。下村勇二(「デス・トランス」監督)っていう後輩がいて、彼も監督デビューしたんですが、彼やスタッフと話していたのは、楽しかった頃の80年代の香港映画を思い出そうと。それに、子供からお年寄りまで楽しめる娯楽映画、とくに子供が喜ぶ映画にしたかった。子供に媚びるというのじゃなく、構成や映像でも子供がわくわくする要素を盛り込んだつもりです」
――最後に、谷垣ファンに向けてここはチェックして欲しいというところは。
「最初の百人組み手の悪鬼の格好は、『ヤング・マスター』(師弟出馬、80年香港)のキムのですね(笑)。仮面は『レジェンド・オブ・ヒーロー 中華英雄』(99年香港)の鬼撲ですし。とくにオマージュというんじゃない。浮かぶのがそれ、やっぱり僕の引き出し、原点っていうのが、そのあたりなんですよね」
(聞き手・構成:笠原宗彦)
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