●「アクロバティック白鳥の湖」〜超絶演技と感動の愛(2006/07/31)
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中国の記念碑的ステージ作品−−鈴木秀明
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とうとう、ここまで来たのか――。
これが28日から東京公演が始まった「アクロバティック白鳥の湖」の舞台に接して、まず感じたことだ。中国の雑技をベースにした作品。しかし、西洋のバレエと巧みに融合させ、娯楽作品としても芸術作品としても、極めてレベルの高い舞台に仕上がっている。中国が50年あまりの時間をかけて取り組んできた舞台芸術の向上に関する一つの結論が、この「白鳥」に示されているといっても過言ではない。
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■3000年の歴史を経て、なお進化する雑技
中国の雑技は、ざっと2500年から3000年の歴史を持つとされている。漢代には百戯などとも呼ばれ、現在の雑技でもよく見られる演技が図画として残っている。
中華人民共和国成立後も、雑技は「人民のための芸術であり、人民のための娯楽である」と高く評価された。大道芸人として路上で雑技を披露していた演技者も、改めて雑技団の団員になり、後進の指導にも従事することになった。こうして、1950年代以降、中国の雑技はさらにレベルを高めることになった。
■繰り返された「中西結合」への挑戦
ところで、中国文化の特徴の一つとして「伝統に対して新しい要素を追加することに熱心だ」ということがある。例えば、京劇の伴奏にチェロを入れてみたりする。日本だったら、「そんなに簡単に伝統を変更してよいのか」と疑問に感じる人も多いだろう。しかし、中国では「それが改良というものだ。よくなるのだったら、変えてもよい」という考えが圧倒的に多いわけだ。
舞台作品の組み立てそのものでも、中国と西洋の要素を組み合わせる「中西結合」という試みが、数限りなく行われてきた。ただ、そのできばえについては、首をかしげざるをえなかったものも多かった。
そもそも、異なる歴史を持つ芸術を組み合わせることは容易でない。それぞれのよさを生かし、作品全体として融合させなければならない。創作にたずさわる者なら、その難しさはよく分かるはずだ。
■実践を重ねて、高いレベルに到達
かつて、中国で創作された「中西結合」作品の中には、「そんな方法でうまくいかないことは、作ってみる前に分かりそうなものだ」という作品も多かった。しかし、中国人たちは挑戦をやめなかった。
中国人は「現実的かつ楽天的」と言われることが多い。芸術における創作活動に関しても「作ってみなければ分からない」「案外よいものができるかもしれない」「成功する可能性だってある」とばかりに、「中西結合」の作品は作られ続けた。
その結果、経験を重ねるとともに、西洋文化への理解も深みを増していった。1980年代から、西洋の一流作品に接する機会が格段に多くなったことも幸いした。安直な接木ではなく、「何を表現したいのか」ということをベースに、創作の方向性を徹底的に考えるようになった。そして、作品の質は少しずつ向上していった。
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■観衆を「おとぎの国」に引き込む作品の力
さて、ここで再び「アクロバティック白鳥の湖」の舞台を振りかえってみたい。雑技とバレエを融合させた作品だ。音楽は、バレエ作品の伴奏音楽であるチャイコフスキーの楽曲に基づいている。
甘美で時として情熱的な音楽に乗せて雑技の技が演じられる。長い棒の上での演技や空中ブランコなど。スリリングな妙技に手に汗を握る。しかし、そうしているうちに観衆は知らず知らず、舞台の上の「おとぎの国」に引き込まれていってしまう。
大きな技だけではない。細かい部分にも心憎いばかりの気配りが行き届いている。例えば、前半部分の金属製のサークルを用いたパフォーマンスだ。3拍子の音楽と回転運動が実によく調和している。ちょうど、ディズニーアニメ『ファンタジア』のいくつかのシーンのように、動きと音楽が理想的に調和している。それが、舞台の上で実演されるわけだ。
もう一つ、注意していただきたいものに舞台後半で見られる白鳥たちの動きがある。舞台を移動する際に、頭の部分が全く上下しない。こういった種類の動きは京劇などでも見られるものだが、水面をすべるように動く白鳥の雰囲気が実によく出ている。本来のバレエでは、こういった表現は不可能なのではないか。
■上質のエンターテインメント性で幅広い層を魅了
そして、この「おとぎの国」の物語の究極のテーマは「愛」だ。王子と白鳥(姫)は、肉体の極限としか表現のしようがない演技を次々に披露。しかしそれは、作品の流れに調和させた形で「二人の愛」をシンボライズしたものだ。「技のための技」ではない。よくぞここまで鍛えたものだという「感心」は、いつしか「感動」に変わっていく。
また、この作品で忘れてならないことは、質の高いエンターテインメント性にあふれていることだ。「芸術であり娯楽である」という、中華人民共和国成立後に再確認された雑技の方向性は健在だ。子どもから大人まで、幅広い層が楽しめる作品に仕上がっている。この「白鳥」が現代中国のステージ作品として記念碑的存在であることは、間違いない。
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「アクロバティック白鳥の湖」東京公演は7月28日から8月13日までBunkamuraオーチャードホールにて(全15公演)。大阪公演は8月18日−20日梅田芸術劇場にて、福岡公演は8月26日、27日福岡サンパレスにて。
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